耳の形に合わせたカスタムイヤホン、カスタムIEM の Fitear MH335DW を作ったよ!

銀座に須山補聴器( http://4133.com/ )さんという補聴器メーカーさんがありまして、工場は千葉の方なんだそうですが、そこの須山では、以前よりFitear というブランドで補聴器用の耳栓や、アーティスト用のインイヤーモニター( http://fitear.jp/music/ )を製作していました。

なんでもステージの上では大音響が邪魔して自分の演奏している曲や声が聞こえないのだそうで、その中で演奏や歌唱に必要な音をアーティストに着実にフィードバック出来るように製作された、遮音性の高いイヤホン。遮音性を高くするために耳型印象を採取して、それで耳の形を把握して、耳の形状にフィットするようなイヤホンをその人専用に製作します。
今回、音楽鑑賞用に一般に販売されているそのイヤホン、Fitear MH335DW を製作してもらいましたので、レビュー記事を作成しました。




■採取された僕の耳型印象


<耳型採取>
わたしは直販で買ったので、まず須山補聴器さんに電話して、予約して、銀座に行って、説明をうけて、耳型を取ってもらう、という手順でした。東銀座駅から歩いて数分の場所に須山補聴器銀座店、というか自社ビル(!)があります。新橋から歩いても10分弱と知れている距離なので、そっちからでも大丈夫です。

到着すると係の方に別の階に案内していただいて、事前の電話予約時に伝えておいた試聴機を出してもらって視聴して、どれを買うかを決めます。私は当初の予約時点ではMH334を、と伝えていましたが、当日に、出来ればMH335DWも…とお話したところ、そのまますぐ棚から出していただけました。とはいえ全種類聞きたい、とかの場合は事前に言っておいた方がよいのかもしれません。

試聴機はカスタムの先にカナル型イヤホンについてる先端のイヤーチップがむりやり付けられている感じのもので、カスタムの完成してからの感想で言うと「微妙に試聴機と仕上がりは違う」「試聴機はボワボワして聞こえてしまうかも」という感じでした。「これじゃ博打じゃね?」と一瞬思ったんですけど、MH334とMH335DWを聞き比べたときにピンと来たのがMH335DWだったので、作ってもらうならMH335DWだろうと、ここでまさかの心変わりと相成りました。

※ネットでいろんな人がいろんな感想を言ってますが、たぶんこのあたりは個人差が凄い大きいので、先入観を持たずあんまり気にしないで自分の直観と感想を大事にした方がよさそうです。とはいえ、まぁ、ネット上の先行レビューを気にしないというのはきっと無理でしょうけど…

で、私は「MH335DW下さい」と言ってしまいまして、じゃあ、というので係の方が準備をして耳型を採取します。実際には言う前から準備されてましたが…。

準備は「耳の奥を怪我してないか」とか「何かあって病院に行くことになっても責任は持てないよ」とかの質問と同意書、です。はいはいとチェックしてサインしたらライト付きの漏斗みたいなもので耳穴を軽くチェックされます。耳垢の有無とかみてるようです。私はいちおう掃除していったつもりだったものの、右耳をみられたときに「耳垢ぜんぶ取るのって難しいですよね」みたいな話をされました。たぶん耳垢残ってたんじゃないかなと思います。辛い。

奥でごそごそやっていた(たぶん印象材を練っていた)係の方がこちらに来られ、白い綿のようなものを栓として耳奥に突っ込まれた後、緑色のにゅるっとしたシリコン的なものを注射器で流し込まれて顎を左右にうごかしたり口を開けたりして(ぜんぶ応対して下さる方が指示してくれます)、しばらく待つと取り外してくれます。で、出来上がったのが上の写真にある緑色のサザエです。

待っている間に「シェルの色」と「フェイスプレートの色」「文字入れの有無と入れる文字」を決めてね、と言われてますので、決めます。イヤホンは耳の中に入って見えなくなる部分、フェイスプレートはつけたときに外から見える部分です。私は悩みました。お店に行くまではシェルを透明、フェイスプレートを黒にしようと思っていたものの、サンプルをみてああぜんぶ透明もいいなと思って悩み、右左分からなくなるから右耳の先端を赤くしといた方が良いかなとも思ったり(結果的にはこれが大正解だった)、係の方は「お客さんは青が似合いそう」という衝撃のリコメンドをしていただいたり、いろいろ10分前後の間にあっちへこっちへ感想がふらついた挙げ句、「両耳ともシェル、フェイスプレートとも透明に、右耳の先端を赤くする」「文字入れは右耳に" zeissizm "って入れる」と決めました。わりと思いつきでこの組み合わせを決めました、たぶんどうなってもあんまり後悔しないと思います。「青が似合いそう」のコメントをガン無視したチョイスにしてしまってごめんなさい。

耳型印象取得が終わったら、金額を聞いて、注文書を確認してもらって、連絡方法を決めて(私はメールで完成連絡をもらい、電話で来店受け取りの時間予約を返答する、でした)その日は終わりです。
代金の支払いは製作後の受け取り時に、耳型取得代金込みの料金をお支払い、という感じでした。郵送の方はその場で支払うらしい。クレジットカード使えます。

終わったら、近くのお店でご飯食べて帰りましょう。明日から仕事頑張ろう、という気になります。私はその日はなりました。
私は銀座の「いきなり!ステーキ」に行きましたが、立ちながら肉を食べてしかも夜はそれほど安くないので微妙な気持ちになりました。

※代理店経由で買う場合は代理店の紹介で別の場所で耳型を取得し、取った耳型を送る、という方法もあるようです。詳細は買う場所で聞いて下さい。




■受け取ってお店を出て喫茶店に入って即撮影したイヤホン。


<製品受け取り>
注文してから出来上がるまでどれくらいかかるか、は人によってだいぶ違うようです。私の場合は「いまだとだいたい一ヶ月くらいかかります」と言われ、9/3に注文をして、完成連絡が10/2に着ましたから、予告通りちょうど一ヶ月でした。二週間で来た、という場合も、1.5ヶ月かかった、という人も散見されるので、気長に待つのがよいと思います。

製作待ちの間、ネット上のレビューを読み漁って過ごしましょう。たぶんぼくは日本語で書かれたFitearと大物カスタムIEMのレビューは記事/ブログを問わずあらかた読んでしまったのではないか。後半は海外のフォーラムのスレッドをえっちらおっちら読んでいました。話が脇道にそれますが、こういう系のレビューを読んでると「いろいろと感想はばらつくな」「音に関するレビューは条件を揃えて並べるのが困難なので難しいよね」「信じられるのは自分だけ、と考えるがたぶん幸せ」あたりの感想が導かれます。

さて、ある日お待ちかねの完成連絡がきて、来店予約して、お店に行って、注意を聞いて、モノを確認して、お金を払って受け取ります。お店出た後にすぐ触りたくなるのが人情ですのでその辺はたぶんみなさん好きにされるんでしょうけど、私は近くのスタバで開封式しました。須山補聴器銀座店の近くにスタバがあります。水曜はおかわり100円の時にサイズアップ出来るキャンペーンやってました。トール頼むとグランデがおかわりできます。…お腹たぷたぷなるわ。上の写真はそこで撮影したもの。ちなみに開封式のときのコーヒーはショートでした。

音はね、衝撃でした。なんというか濃厚。こってりした音がどどどっと迫ってきて凄くてたぶんスタバの席でにやにやしてた。たぶんしてた。

ただ、私の場合、その際に左耳だけ封止がすぐ破れるような感じで、フィットが今イチだったので、悩んだもののその日に再度お店に連絡したうえでお店に伺い、お店の方と相談したうえで、すこし先端を太らせる加工(リフィット)を行ってもらうことにしました。耳型をとったときに左耳だけわりと「すっ」と取れてしまったのでちょっと大丈夫かなと思ってたのもあったのですが、耳型にきっちり合わせた加工をされるのだなと思いました(当たり前なのでしょうが)。
私の場合、10/3に受け取り、再加工を依頼して、10/11に再加工完の連絡を頂きました。思ったより早かったなという印象。ちなみにリフィット後はすごい吸い付くような付け心地ですが、こんどは4時間つづけて聞き続けると太く再加工してもらった左耳がちょっと痛いかも?という感じ。これはしばらく様子を見てみることにします。




Shure SE215との比較。サイズが…違う…


<レビュー>
バスタブ曲線は信じてますがエージングはそれほど信じていないのでもうこの時点でレビューしちゃいますが、性能的には、駆動力と解像性能に定評があるけれども再生帯域の狭いバランスドアーマチュアドライバを低音域、中低音域、高音域それぞれに分担させて、低音2個,中低音2個,高音1個の合計5つ積んだもの。見た目はあの透明なレジンの美しいサザエ型補聴器。

音質は、僕ごときがどうこういうレベルではないです。さくさくと余裕の高解像度できっちりとごまかしなく鳴らしつづけます。音源がもやっとしていなければ全くの曇りなく描写しきっちゃう。どの音もきっちり聞こえるようにバランスをとりながら、低域の質感を向上、という触れ込みですが、「低音の解像感」というのはああなるほど、という感じで、低周波の突発音をすっと減衰させている、というイメージ。普通の形状のスピーカーを積んだいわゆるダイナミック側イヤホン、私が使っているのだと例えばSE215とかではティンパニが「バァーン」と鳴っているのに対してMH335DWだと「バァン!」って鳴っているように聞こえます。引き締まった音、という感想になるのでしょうか。※元の録音がどうなのかは知らない。

高音なんかはきっと減衰がシビアなので試聴機と完成品では印象が違うかもしれません。完成品でも人の耳型によって特性が変わるかもしれません。ユニバーサルのSE846なんかだと高音の出方を調整出来ますよね。たぶんセンシティブなんだろうと思います。私のは高音もしっかりくっきりはっきり鳴ります。「ボーカルが奥に引っ込む」「中高音が低音にマスクされてる」という感想もみられてますが、私の印象はとくにそういう感じはなく、高音までしっかりフラットぉぉぉな感じで、でも精悍な低域がどんと鎮座してるという感想です。弦楽器や打楽器の鳴り方もディティールを伴って迫ってくるというか、叩かれて震えている部分の映像が浮かんできそうな、という月並みな印象文を書いてしまうくらい、とても良いです。まぁ悪かったらキレて良いくらいの価格ではありますが…。

あとコードは硬くて何も考えずに巻くと、ビヨンっ、て暴れてしまうので、お店の方が「8の字巻き」を教えてくれます。頑張って習熟しましょう。私は練習中です。コードは耳の後ろを通して、首の後ろでまとめて、襟にクリップで留めて(ちょっと仰々しい)、私は背中を垂らしてポケットのプレイヤーまで伸ばしています。自分主観では背中にコードを垂らすのは異様な感じと思ってしまいますが、まぁコードの処理などは他人は誰も気にしないでしょうし、慣れるとタッチノイズも皆無でとても快適です。


<まとめ>
モノはある程度のラインまでは値段と性能が比例関係でぐんぐんと伸びていき、ある時点でそのカーブは寝てきます。最初は2倍の価格なら2倍の性能、だったのが、4倍の価格で4倍良いかと言われると、というレベルにある程度からはなってくる。まぁそのカーブが寝たあとのところにこの製品が位置しているのは間違いないので、「コスパ最強」とか「みんな買うべき」とかとは口が裂けても言いませんが、あとはサンクコスト的な自己満足も含みつつ、プロダクトとしての美しさとかカスタムという特別感とか、あとなにより絶対的な音の良さと合わせて、とても素敵なイヤホンだと思います。