時計

夏のある日、たかし君は空き地で格好よくて古い時計を拾った。
お家に帰って台所で綺麗に拭いたらピカピカになった。
腕に嵌めたらあつらえたようにぴったり嵌まり、時計を振ると針が動き始めて、
これはパパが使っていて以前説明してくれた自動巻きってやつだって分かった。
ママに僕にも腕時計が欲しい、腕時計が欲しいと言っていたけれど、
そんなの贅沢だから、と買ってもらえなかったのだ。

ああこれは僕に神様がくれた時計なんだ、そうに違いないとたかし君は嬉しくなった。
でもこれがママに見つかるともとの空き地に返してきなさいって取り上げられちゃう。
ママに見つかるといけないから、これは隠しておかなくちゃ、
そう思ったたかし君は二階の部屋にあがった。机の裏に置いてある秘密の缶に時計を入れるのだ。
部屋の扉を開けると、たかし君はベッドの下にいた女の人と目が合った。
たかし君はびっくりして廊下に後ずさった。

女の人だと思ったのはなんと人間の顔がついた巨大な蜘蛛で、
返せ、その時計を返せと、恐ろしい形相で叫んできた。
蜘蛛の胴体から生えた沢山の足一本一本にはたくさんの腕時計がびっちりと巻かれて、
ぎらついて眩しいほどだ。蜘蛛の顔は長い髪をしていて、
髪の間からは真っ赤に充血した目がこちらを睨みつけ、
白い顔に浮かぶ真っ赤な唇からは、これまた赤くて長い舌がちろりと蠢いている。
たかし君は時計を返そうと必死にベルトを外そうとしたけれど、
腕が震えてベルトを持つことが出来ない。おまけに時計はぴっちりと腕にはまって全く取れず、
足から力が抜けたかし君は、廊下にへたり込んでしまった。

おぉぉぉまぁぁえぇぇぇかえぇぇせぇぇぇ、窓ガラスがびりびりと震えるほどの大声で叫びながら、
蜘蛛はたかし君に襲いかかってきた。たかし君はもう怖くて訳も分からずに震え、
自分の歯がガチンガチンと大きな音を立てるのをただ聞いていた。
蜘蛛はたかし君の足首を掴むと、ベッドの下に引きずり込んだ。

埃の舞うベッドの下で銀色に光る蜘蛛の足に首を絡めとられながら、
たかし君はこれまで見たこともない素敵な世界への冒険に旅立つ夢をみていたが、
その夢が母親によってノートに記録されたものが焼け跡から回収されて復元され、
後日出版され「妖怪ウォッチ」となるのである。