コールドランナーの悲劇

がちゃん、がちゃん、がちゃん。


射出成形の金型を小人の形に彫って打ち出したら、出来上がった小人はぴくぴくと動くばかりで立ち上がる気配が見られません。ああこれは射出圧が低かったなと圧を上げて数度打つと、だんだん元気な小人が落ちてきました。弱った小人にみんなが群がり、人工呼吸をしています。小さな動きが微笑ましくて、続けて何度も打ってみました。


がちゃん、がちゃん、がちゃん。


機械は快調に動いています。気がついたらすごい数の小人が生まれていました。あちらこちらでふらふら、ふらふら。そこかしこでじゃれあい、きょろきょろしています。ああこれは掃除が大変だと笑っていたら、蘇生をしていた小人のあたりがかちゃかちゃ鳴りはじめました。頭のランナをちぎりとりはじめたようです。外したランナを槍のように構えはじめています。どうやら初期の小人が冷えて固まり息絶えたようです。他の小人も気づいたようです。ぷちぷちとはじける音が工場に響きます。ランナで床を叩く音も聞こえます。私達に抗議しているのでしょうか。どうすれば良いか分かりません。


がちゃん、がちゃん、がちゃん。


立ち尽くす私達にしびれをきらしたか、からからからと床をならして突進しはじめる小人達。ひとりひとりは小さいのですが、数が多くて大変です。足を取られた私と班長はおびただしい小人達の中に転んでしまいました。私達を囲った小人は、ランナの槍で肌をちくちく突いてきます。最初は痒いと笑ってたものの、だんだん皮膚に傷がついて、だらだらと血が出始めました。班長は悲鳴を上げています。血が、血が止まりません。小人同士が接触してかちかち響く音、班長の悲鳴、私のうめき声。


がちゃん、がちゃん、がちゃん。


後ろでは機械が小人を量産しています。きっと新しく生まれた彼らもランナを外し、私達を突きにくるのでしょう。だんだん意識が薄くなっていく中で思っていたのは、ああホットランナにしとけばよかった、でした。なにごとも、初期投資をけちってはいけないのです。